ビオトープって何?

『Biotop』という言葉はドイツでどう使われているのでしょう
< もくじ >
ビオトープを探して
本来の生態系が保たれた空間
キーワードとしてのビオトープ
ビオトープは目立たない?!
ビオトープを探して
ヤスコさんからいただいだメッセージ
はじめまして!ゼミの発表の準備をしています。参考になるものを探しているときにこのページに出会いました。私は緑化の勉強をしている大学3年生です。先日、ドイツを12日間旅行しました。フュッセンとミュンヘン、ローテンブルグ、ハイデルベルグ、ダルムシュタッドなどです。そのドイツ旅行で感じてきたことをゼミで発表しなければなりません。最も印象に残っていることは、ミュンヘンなどの大都市の中に河川とその周辺を含めた大きなビオトープがあることです。私はそれを肌で感じてくることが出来ましたが、ミュンヘンの市庁舎や銀行に行っても、ビオトープについての参考文献(パンフレットなど)を手に入れることが出来ませんでした.ドイツだけにビオトープに関する情報は溢れているに違いないと思っていたのですが、ビオトープのビの字も見ることはありませんでした。「本当はビオトープへの取り組みはそんなにスゴイものでもないのかな?」と思ったくらいです。でも、私の探し方が悪かったのだと思います。まだ諦めがつきません。もしよろしければ、緑化やビオトープに関する現地ならではのお話を聞かせてください!よろしくお願いします。突然で本当にすみません。
ヤスコさんからのメッセージを読んで、なるほどそうかもしれないと思いました。結論から言うとビオトープの考え方はドイツでもすごく重要です。“いろいろなビオトープ > 生き物の住むところ”でごくごく簡単に“ビオトープ”の説明をしました。それに続くすべてのトピックを順に読んでいただけば、カールスルーエ市のビオトープについてみなさんそれぞれのイメージを持っていただけたと思います。このトピックではドイツでビオトープという言葉がどう扱われているかを考えてみましょう。
本来の生態系が保たれた空間
ビオトープ(Biotop)とはもともとギリシャ語で『bio=生き物 + top=住むところ』
という意味のドイツの造語です。広い意味で捉えれば森林や海洋などもビオトープと言えますが、一般的には“人間が生活活動するところで”という但し書きがつきます。ドイツで高等教育を受けた人や環境保全に興味のある人は必ずといっていいほど知っている言葉で、この分野では欠かすことのできないキーワードの一つです。
  • 建物の屋上に作られた緑地
  • 街の中に残るライン川の古い砂丘
  • 自然回復工事が行われた河川
  • ブッシュや立ち木が残された畑
  • 高速道路の上に作られた自然公園
などをビオトープの例として紹介してきましたが、その他に
  • 生態系を考慮して作られた学校の庭、沼地など
  • 自然の生態系を大切にする自宅の庭やクラインガルテン
などもビオトープと言えます。こうしてみるとどのビオトープも『生物・環境保全』に直接関連しますが、含まれる分野は様々です。私が住む街で考えると、次のようなカテゴリーの中でビオトープという概念が登場します。
  • 建築
  • 土木
  • 都市計画
  • 交通
  • 農業
  • 河川・湖沼
  • 生物
  • 教育
  • 造園
  • 個人の庭
例えばカールスルーエ市役所の受付へ行って『ビオトープを見たい』と言ったとします。受付の人はビオトープという言葉は(たぶん)知っているはずですが『それで、どんなビオトープが見たいの?』と聞いてくるのではないでしょうか。そこで『公園のビオトープを見たい』と言えば公園局を紹介してくれるだろうし、『川のビオトープを見たい』といえば土木課を紹介してくれると思います。ちょっと乱暴ですが『Biotopeを見たい』を直訳的に言いかえて『本来の生態系が保たれた空間が見たい』とだけ言っても受付の人には範囲が広すぎて具体的な要望が分かりませんよね。

トピック“アルプ川”にも書いた話ですが市の土木課で『自然回復工事が行われたところはビオトープとも言えるのか?』と質問したら『どうなのかなー?』と言われて拍子抜けしたことがあります。その方が冊子を開くとその自然回復工事は確かにビオトープの項目に掲載されていて『ああ、これもビオトープなんだね。』と言ってました。こんな風に、ドイツではビオトープを作ることをあまり意識せずいろいろな分野で環境保全を進めていく結果としてビオトープが生まれるのではないでしょうか? 次のようにも言えると思います。

『それぞれの分野で環境保全を進めていくと、ビオトープにたどり着く』

一般的には『ビオトープを作る』ことを目的として緑地整備がされているわけではないので、街中でビオトープという言葉をたくさん見つけることはできないと思います。だからといってビオトープに対する取り組みが盛んでないわけではなく、環境保全に関する様々な分野の中に出てくる重要な概念なのです。

キーワードとしてのビオトープ
先日、テレビのレポートで“カーペットのビオトープ”という言葉が出てきました。家庭のカーペットにはたくさんのダニが住んでいますが、そのミクロな生態系を半分冗談でビオトープと名づけたわけです。他にも生活に身近なところでは生態系に配慮した個人の庭を“ビオトープの庭”と呼べるでしょうし、コンポストもビオトープと言えるでしょう。ちょっと哲学的に言えば地球も一つのビオトープですね。

ビオトープをキーワードにしてカールスルーエ市とミュンヘン市の公式サイトを見てみました。どんな分野でどんな風にキーワード“ビオトープ”が使われているかを知ることができます。

カールスルーエ市の公式サイト
<http://www.karlsruhe.de/>
ミュンヘン市の公式サイト
<http://www.muenchen.de/>
Natur,Zoo,Umwelt(自然、動物園、環境)のページへ
  ⇒Biotopeの項目は出てこない
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  ⇒Biotopeの項目は出てこない
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  ⇒計22件のトピック

〜内訳〜
Daxlandenの公園のビオトープ
環境:1998年 環境保護報告
市民講座プログラム 環境:2000年前期
土地利用計画に関する住民からの提案
環境:環境保護ではなく芝生(記事)
カールスルーエの公園、緑地、景域
カールスルーエの森林の機能
……

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  ⇒Biotopeを検索
  ⇒計19件のトピック
〜内訳〜
オリンピックスタジアムの土地利用
EG公園の土地利用
市街地の土地利用
Isar川の自然回復工事
ミュンヘンの自然保護区域
土地の生態系
ミュンヘンの土地利用
……
ビオトープは目立たない?!
ドイツで街の中に奇麗な花の公園を作れば、公園局には市民から『すばらしー!』という声がたくさん寄せられます。しかしビオトープの公園を作っても反響はいまひとつです。ドイツの街では、今のところ伝統的なフランス式(ヨーロッパ式)の公園が好まれます。自然保護運動が盛んだからといって、街中の公園がどんどんビオトープの公園に置き換わっていくわけでは決してありません。

日本から緑地政策を視察に来た方をカールスルーエのビオトープにご案内して『こういう風景って、なんてこと無い、昔の日本にはどこにでもあったよね。』 と言われたことがあります。ビオトープとは自然の元々の姿であるがゆえに、実はとても地味なものなのです。紹介したビオトープの公園には目の醒めるような奇麗な芝生はどこにもなく、一見すると市街地の中にある静かな草原の公園でしかありません。ところどころにさりげなく立つビオトープ説明の立て札を見て、やっとビオトープの考え方が生きていることに気がつくくらいです。しかしよく考えてみると“違和感が無い”そして“特別な存在感が無い”ことこそ人に対する優しさの究極の姿ではないでしょうか? 自然の草原に寝転んでボーッとする時の心地よさは、人工的に作られた公園では味わえない最高の安らぎです。

さて、このトピックに書いたことは実際にドイツのビオトープを見た私の感想です。専門とする分野の異なる方にとってのビオトープはまた別かもしれません。『ビオトープとは何か?』についてみなさんがどのように思われるかご意見をお寄せいただけるとうれしいいです。

 
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ビオトープ見学は、市の公園局の方にお世話になりました。
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