このトピック「トラムと車が共存する未来」は

財団法人 日本経済研究所の月刊誌 「日経研月報 2002年3月号」
「ドイツ環境レポート第3回」として掲載された記事に加筆したものです。

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トラムと車が共存する未来
〜Sバーンとトラムが支える地域交通システム〜

 

目次

ページ
日本とドイツのさまざまな違い 1
Sバーン・トラムと車の共存 2
トラムのバリアフリー 3
KVVのさまざまな工夫 3
トラムと安全性 4
カールスルーエから学べること 4

 

街の住みやすさを考えるとき、物差しの一つになるのが公共交通の使いやすさ。人口27万のカールスルーエ市にはドイツでも
トップクラスの地域交通システムがあり、快適で質の高い
公共交通サービスを提供している。

60・70年代のモータリゼーションの流れの中、ドイツでは多くの街がトラムを廃止してバスに切り替えた。しかし近年、排気ガスを出さず車の渋滞にも巻き込まれないトラムの魅力が再び注目されるようになってきた。

カールスルーエ市では、市民の足としてSバーン
(S-Bahn:近距離都市鉄道)8路線・トラム6路線・バス30路線
余りが整備 されている。特に世界的な関心を集めているのが“カールスルーエモデル ”として知られる独特なトラムと鉄道の融合システム。

今回は読者の皆さんと一緒にSバーン・トラムに乗車し、現在も革新と成長を続けるカールスルーエの地域交通システムを利用者の視点から観察してみたい。

 


【日本とドイツのさまざまな違い】

◆ 改札が無い?! 〜検札システム〜

初めてドイツのSバーン・トラム・バスを利用して驚いたのが乗車券の検札システム。停留所の自動販売機で買った乗車券を、車内の検札ボックスに挿入すると“チーン!”という音と共に列車番号と日時が刻印される。乗車するとき運転手に切符を見せる必要もないし、降りるとき切符を出す必要も無い。トラムには数箇所の出入り口があり、乗客はどこを使ってもいいので、乗降がスムーズでトラムの停車時間が短くて済む

では、いったいどのようにして乗車券をチェックするのか? 誰しも頭に浮かぶのが「これならキセル乗車ができる!?」という、よからぬ考え…。以前、ある日本の新聞で「ドイツ人はモラルが高いので、乗客はちゃんと乗車券を買って乗車する。」という記事を読んだが、残念ながらこれは少々美化のし過ぎ。実際は私服の検札が車内を巡回し、乗車券・定期券を持っていない乗客は最高30ユーロの罰金を払わなければならない。毎日利用していて2日連続で検札にあうこともあれば、3ヶ月全くあわないこともある。

 

トラム内の刻印機

赤いところに乗車券を差し込むと時間などが刻印される。
たとえ乗車券を持っていても、刻印を忘れると有効ではない。

4回乗車券(上)と定期券(下)

4回乗車券には裏と表に計4箇所の刻印スペースがある。
下の定期券は年間定期12枚つづりの中の1枚。1ヶ月ごとに切り取って使う。

 


◆ たった1枚の切符で、地下鉄・Sバーン・トラム・バスに乗車OK!?

ドイツ国内には100余りの交通連盟があり、これが全国をモザイク状に分割して地域交通を統括している。各交通連盟の管轄する区域の大きさと連盟の運営システムには違いがあるが、連盟が乗車券を一元管理しているので区域内ならば地下鉄・Sバーン・トラム・バスをたった1枚の乗車券・定期で利用することが可能 になる。

カールスルーエ交通連盟KVVK arlsruher V erkehrsv erbund GmbH)を例にして話を進めたい。KVVの頭にはカールスルーエと付いているが、実際は7つの地方自治体が共同で管理運営している有限会社である。区域内の総人口は約130万で、Sバーン・トラムの利用者数は年間延べ1億4千万人。一部の小型バスは私企業が所有しているが、Sバーン・トラム・ほとんどのバスは、実質的に自治体が運営している。KVVは、乗車券の発行・管理ダイヤの調整広報とマーケティング を行っており、トラムやバスを所有しているわけではない。

ここでいうトラムとは路面電車のことだが、昔日本で走っていたチンチン電車とは違い、車両は近代的で乗り心地も格段にいい。

Sバーンは日本語に訳すと近距離都市鉄道 。ドイツ全国を網羅するドイツ鉄道(日本のJRにあたる)と、街の中を走るトラムの中間的な存在 で、近距離の街を結んで走っている。

 

自治体、KVV、事業者の関係

7つの地方自治体 -------→

KVV

-------→ 各事業者
                               <共同運営>

 

<事業の調整>

◆ Sバーン

   

 

 

◆ トラム

   

 

 

◆ バス

       

◆ 小型バス

       

◆ 地域交通

   

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

◆ カールスルーエモデル

一般の交通連盟では、Sバーンはドイツ鉄道の線路上を走り車両も一般の鉄道と違わないが、KVVのSバーンは鉄道の線路とトラムの線路の両方を走れる ように作られている。車体のデザインはトラムに似ているが、床下にトランスを積んで鉄道(AC15000V)とトラム(DC750V)の両方のシステムに対応している。郊外は鉄道、市街地はトラムとして走るこのようなシステムはカールスルーエモデル と呼ばれ、1992年に初めてKVVに導入されたものである。

KVVのSバーン

郊外の停留所

 

KVVのSバーン運転席(走行中)

ランプ左からDC750V(トラムのシステム)・0V・AC15kV(鉄道のシステム)。
0Vのランプは2つのシステムを繋ぐ無電区間(150m)を走行しているときに点灯する。

 

KVVの低床トラム

最新型のトラムと古い街並み。
奇妙な取り合わせではあるが、不思議と調和している。


カールスルーエモデルによって、利用者は具体的にどのような利益が得られるのだろう? 一言で表現すれば郊外から市街中心へ乗り換え無しで行ける便利さ 。例えばSバーン路線4(以下“S4”)を使えば、私が住むカールスルーエ市街地から40キロ離れた高級温泉保養地バーデン・バーデンまでSバーン1本で行ける。以前は中央駅まで行って鉄道に乗り換えなければならなかったが、S4だとその手間がないし列車の待ち時間も必要ない。ある日本人が「街の中心からバーデン・バーデンの温泉まで下駄履きで行けるわけだ!」と言っていたが、カールスルーエモデルの使い勝手の良さをよく表していると思う。カールスルーエモデル導入の効果は顕著で、S4が開通すると鉄道しか無かったときに比べて同区間の利用者数は、なんと7倍に増加した。

さて、なんとなくドイツのSバーンとトラムの感じをつかんでいただけただろうか? それではいよいよ乗車券を購入し、通勤でSバーンを利用しているヨークさんと一緒に体験乗車してみよう。

 

 

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