このトピック「トラムと車が共存する未来」は

財団法人 日本経済研究所の月刊誌 「日経研月報 2002年3月号」
「ドイツ環境レポート第3回」として掲載された記事に加筆したものです。

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【Sバーン・トラムと車の共存】

◆ パーク&ライド

カールスルーエ大学に勤務するヨークさんは、通勤に車とSバーン路線5(以下“S5”)の両方を使っている。S5にカールスルーエシステムが導入されたのは1997年で、それまでは自宅から職場まで20キロを車で通勤していたそうだ。ヨークさんの住む郊外の町にはもともと鉄道の駅があったが、その線路をS5が利用するようになっていろいろな点が変わった。
 
 ●鉄道の運行は30分に1本程度だったが、S5は10分に1本。
 ●自宅近くに無料駐車場を備えた停留所が完成。
 ●終電の時間が大幅に延長。

鉄道は一度に大量の乗客を運ぶのに適しているが、比較的小人数をこまめに運ぶには向かない。また、カールスルーエのSバーンは鉄道と違って短い間隔で停留所を作ることができるので、S5の乗り入れによって街のトラム網が郊外まで延びた とも言える。

環境のことを考えても、自家用車よりS5の方が優れている。車を1人で使うのは不経済だし、市街地の交通渋滞や大気汚染など都市環境にも悪影響がある。環境・利便性・経済性を考えて、ヨークさんの現在次のような経路で通勤している。

 

自宅から最寄の停留所まで車

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隣接する無料駐車場を利用

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S5で職場近くの停留所

夜の車内風景(S5、19時ごろ)

ヨークさんにとって、リラックスして通勤できる快適さも大切なポイントの一つ。
朝も夜もほとんど座ることができるそうだ。

 

ヨークさんのような自家用車 / 駅・停留所に隣接した無料駐車場の利用 / Sバーン・トラムで市街地へ という交通形態は、パーク&ライド(P&R) と呼ばれ、通勤だけでなく行楽で利用する人も多い。街で大きな催し物があるときなどは車で市街地に行くことは困難だから、P&Rがとても便利である。

P&R駐車場(S5の停留所)

この停留所のP&R駐車場には計110台分の駐車スペースがある。
駐車料金は無料。

 

P&R駐車場の地図

Sバーン(緑線)・トラム(赤線)の路線図に加え、P&R駐車場のある駅・停留所とその駐車台数がで記されている(青字)。
カールスルーエ市、KVV、ドイツ自動車連盟(ADAC)が共同で発行している。

 

KVV広報のシュタムラーさんは、KVVの目指す地域交通のあり方を“Sバーン・トラムと車は敵対するのではなく共存するもの ”と説明してくれた。

例えばトラムの新設路線6。建設によって道路は4車線から2車線に減るので、自動車の利用者団体から反対の声もあったのだが、開通から2年経った今も交通渋滞など大きな問題は起きていない。写真(次ページ)内の左右にバス停が写っているが、トラムとバスの乗り換えもスムーズにできるようになっている。地域交通の幹の部分をSバーン・トラムが担い、そこから広がる枝の部分をバスのネットと自家用車がカバーしている。

 

トラムの新路線6

路線部分を草地にし、路線と道路の間に街路樹を植え、都市環境にも配慮している。
路線6建設前は中央分離帯のある計4車線の道路だった。

 

◆ 選択肢の多様化

ドイツが目指すのは単純な脱車社会ではない 。車は、現在も未来も無くてはならない交通手段の一つであり、特に郊外では自家用車無しの生活など考えられない。しかし、無駄な車の利用を抑え、できるならば公共交通を利用できるようにするのが、現在の地域交通の考え方だ。Sバーンを利用している60代のあるご夫婦は「普段はSバーン・トラムを使い、買い物に行くときは車を使う」と話していた。“Sバーン・トラムか車か”という排他的な2者択一ではなく、必要に応じて交通手段を使い分けられるような交通環境 を提供する。Sバーン・トラムと車の理想的な共存の道 を探っているわけだ。

 

 

 

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