このトピック「トラムと車が共存する未来」は
◆ パーク&ライド
カールスルーエ大学に勤務するヨークさんは、通勤に車とSバーン路線5(以下“S5”)の両方を使っている。S5にカールスルーエシステムが導入されたのは1997年で、それまでは自宅から職場まで20キロを車で通勤していたそうだ。ヨークさんの住む郊外の町にはもともと鉄道の駅があったが、その線路をS5が利用するようになっていろいろな点が変わった。
●鉄道の運行は30分に1本程度だったが、S5は10分に1本。
●自宅近くに無料駐車場を備えた停留所が完成。
●終電の時間が大幅に延長。
鉄道は一度に大量の乗客を運ぶのに適しているが、比較的小人数をこまめに運ぶには向かない。また、カールスルーエのSバーンは鉄道と違って短い間隔で停留所を作ることができるので、S5の乗り入れによって街のトラム網が郊外まで延びた
とも言える。
環境のことを考えても、自家用車よりS5の方が優れている。車を1人で使うのは不経済だし、市街地の交通渋滞や大気汚染など都市環境にも悪影響がある。環境・利便性・経済性を考えて、ヨークさんの現在次のような経路で通勤している。
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ヨークさんのような自家用車 / 駅・停留所に隣接した無料駐車場の利用 / Sバーン・トラムで市街地へ という交通形態は、パーク&ライド(P&R) と呼ばれ、通勤だけでなく行楽で利用する人も多い。街で大きな催し物があるときなどは車で市街地に行くことは困難だから、P&Rがとても便利である。
P&R駐車場の地図 Sバーン(緑線)・トラム(赤線)の路線図に加え、P&R駐車場のある駅・停留所とその駐車台数がで記されている(青字)。
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KVV広報のシュタムラーさんは、KVVの目指す地域交通のあり方を“Sバーン・トラムと車は敵対するのではなく共存するもの ”と説明してくれた。
例えばトラムの新設路線6。建設によって道路は4車線から2車線に減るので、自動車の利用者団体から反対の声もあったのだが、開通から2年経った今も交通渋滞など大きな問題は起きていない。写真(次ページ)内の左右にバス停が写っているが、トラムとバスの乗り換えもスムーズにできるようになっている。地域交通の幹の部分をSバーン・トラムが担い、そこから広がる枝の部分をバスのネットと自家用車がカバーしている。
◆ 選択肢の多様化
ドイツが目指すのは単純な脱車社会ではない
。車は、現在も未来も無くてはならない交通手段の一つであり、特に郊外では自家用車無しの生活など考えられない。しかし、無駄な車の利用を抑え、できるならば公共交通を利用できるようにするのが、現在の地域交通の考え方だ。Sバーンを利用している60代のあるご夫婦は「普段はSバーン・トラムを使い、買い物に行くときは車を使う」と話していた。“Sバーン・トラムか車か”という排他的な2者択一ではなく、必要に応じて交通手段を使い分けられるような交通環境
を提供する。Sバーン・トラムと車の理想的な共存の道
を探っているわけだ。
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