このトピック「トラムと車が共存する未来」は

財団法人 日本経済研究所の月刊誌 「日経研月報 2002年3月号」
「ドイツ環境レポート第3回」として掲載された記事に加筆したものです。

P1 P2 P3 P4

 



【トラムと安全性】

ほとんどのSバーン・トラムが街のメインストリートを通るように路線が組まれているので、乗り換えは非常に便利だ。便利ではあるがメインストリートで何か事故が起こると全体に大きな影響が出てしまうので、システムのアキレス腱でもある。また、メインストリートではSバーン・トラムの渋滞 も発生するし、人身事故の危険性も高い。実際、昨年暮れには酔った女性が車両にひかれて死亡する事故も起きている。

 

メインストリート 土曜午後3時

Sバーン・トラムは、この人ごみの中をかき分けるようにして走る。
郊外では時速80〜100キロで走るSバーンも、ここでは10〜20キロのノロノロ運転となる。

 

この問題を解決するために提案されているのが、メインストリートにトンネルを掘るプラン(地下と地上の両方の線路を使うことによって混雑を緩和する)。96年には住民投票によって一度否決されたが、今年また再投票が行われる予定だ。市民の代表的な意見は「何らかの対策は必要。でもトンネル化は???」といったところか。多額の建設費用と長期にわたる工事期間に加えて、停留所が地下に作られることによる治安の悪化が大きな心配の種だ。

現在でも、夜1人ではSバーン・トラム・バスを利用しないという女性が多い。カールスルーエの場合は深夜でも車内は安全だが、停留所に降り立ってから自宅までの数分の暗い道のりを危ないと感じるようだ。治安の問題は大都市になるほど深刻で、ハンブルグ郊外に住む知人(60代、女性)は「Sバーンや地下鉄は怖いので日中でも一人では利用しない」と言っていた。このように、地域によって差はあるが安全性の問題が地域交通発展に暗い影を落としている。

 


【カールスルーエから学べること】

KVVには日本を含めて世界中から多くの視察団が訪れるが、システムを調べれば調べるほど他の地域で応用することの難しさが浮き彫りになってくる。シュタムラーさんも言っていたことだが、KVVのシステムをそのまま他の地域に持っていくことは不可能である。KVVはいくつかの街に対してコンサルタント業務を行っているが、街によって人口・街の構造・社会基盤・産業構造などが違うので、それぞれの地域にあったモデルを作らなければならない。外国となればさらに交通に関する法律も異なってくる。

毎日のようにSバーン・トラムを利用していて感じるのは、KVVと市の都市計画課が実にうまく需要を掘り起こしているということ。市民に公共交通の利用を押し付けるわけではなく、自然と使いたくなるし、使ったほうが便利な交通環境を提供 する。その手法が非常に巧みだ。

今回の取材で最も感銘を受けたのが、KVV、市の都市計画課を始め、地域交通にかかわる人々のひたむきな姿勢と、新しいことにチャレンジする勇気である。KVVのシステムもすべてがうまくいっているわけではなく、さまざまな工夫と改善によって支えられている。こういった理念と哲学こそ、学ぶのに最も価値のあるものではないだろうか。

 

取材協力:
* KVV(カールスルーエ交通連盟)
  http://www.karlsruhe.de/KVV/index.htm

* カールスルーエ市都市計画課
  http://www.karlsruhe.de/Stadt/Ver/stpla.htm

 

P1 P2 P3 P4

<交通・自転車 >のもくじ | 表紙ページ


Copyright 2002 MATSUDA,Masahiro. All rights reserved.