このトピック「トラムと車が共存する未来」は
財団法人 日本経済研究所の月刊誌 「日経研月報 2002年3月号」に
「ドイツ環境レポート第3回」として掲載された記事に加筆したものです。
【トラムのバリアフリー】
◆ ベビーカーの利用
ドイツではSバーン・トラム・バスには必ずベビーカー・車椅子用のスペースが用意されている。旧型のトラムにもスペースはあったのだが、乗降口が狭いし階段が4段ほどあったので、ベビーカーの乗せ降しには必ず手助けが必要だった。それに対して数年前に導入が始まった新型の低床車両は停留所と車床の高低差は約20センチ。これだと、ベビーカーの乗せ降しも一人で可能
だ。
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Sバーン内の
ベビーカー用スペース
ここにはベビーカー2台まで駐車OK。
ちょっと詰めれば3台まで乗せられるが、それ以上になると別の乗車口に行かなければならない。
ベビーカーのある車内風景が実に自然。
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トラムのドア開閉ボタン(外側)
乗車するときはこのボタンを押してドアを開ける。(内側にも付いている)
上のボタンはベビーカー・障害者・老齢者用で、下のボタンに比べて1.5倍ほど長く開く。
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◆ 車椅子での利用
しかし、老齢者にとっては20センチの高低差が曲者で、この高さでも実にたくさんの人が転んでケガをする。最新の停留所は車床と同じ高さ(地面から30センチ)に作られ、歩道とはスロープ(傾き6度)でつながれている。歩道→停留所→車床の段差は文字通りゼロだから、車椅子に乗った障害者も一人で乗降できる。こうなると歩道と車床が一体になり、まるでトラムの床が動く歩道
になったような錯覚さえ覚える。
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車椅子の乗客(路線6)
この方は一人でトラムを利用していた。
残念ながら路線6でもすべての停留所が段差ゼロになっているわけではない。
段差のある停留所では、周りの人か運転手に乗降を手伝ってもらう。
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【KVVのさまざまな工夫】
◆ 乗車券のいろいろ
シュタムラーさんの説明によれば、KVVが乗車料金を設定する時に参考とするのが自家用車の利用費用。例えば通勤で自家用車を利用する人は毎日その分のガソリン代+駐車料金が必要となる。1ヶ月でどれだけの費用がかかるかを概算し、定期券料金をそれより約10%安い値段に設定しているそうだ。また、定期を12か月分まとめて買うと2か月分安くなる割引サービスもある。
週末など家族で利用する時は24時間券がぴったり。大人2人+子供2人、あるいは、両親+その子供(人数無制限)がこの券1枚で利用できるから非常にお得だ(大人2人だけでの利用もOK)。とりわけユニークなのが犬の乗車券。犬好きのドイツらしいが、子供と犬料金が同列に扱われているのがまた面白い。
料金表(ユーロ)
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大人
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子供/犬
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1回券
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2.3
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1
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4回券
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7
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3.5
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24時間券
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4.5
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−
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1ヶ月定期
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45
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−
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1学期(半年)定期
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−
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127/−
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12ヶ月定期
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450
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−
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注)乗車料金は乗車距離によって違ってくる。表は乗車距離3の場合。
◆ 3つのモットー
KVVでは利用者の利便性を高めるための、3つのモットーを掲げている。
1. 郊外から市街中心へ乗り換え無しで!
2. 10分に1本の運行!
3. 市街地では停留所を400mに1箇所設置!
1.はカールスルーエモデルに代表される運行形態。
2.の10分は実にちょうどいい運行間隔で、このくらいだと待ち時間が苦にならないし、何より時刻表が見やすく覚えやすい(夜間、休日は20分、30分、…間隔となる)。
3.は、トラムの走る通りに出て右か左へ200m行けば停留所に着ける距離。
◆ 鉄道とSバーン・トラム・バスの乗り継ぎ
フランクフルト中央駅からカールスルーエ中央駅まではICE(ドイツの新幹線)で1時間余り。ICEは、だいたい1番線に到着するが、ホームに降り立ってから駅前のトラム停留所まで徒歩約2分、距離にして約100m。昔は駅前を太い中央道が走っていたが、現在は計2車線に狭められ、その分Sバーン・トラム・バス・タクシーの停留所が拡充されている。ホームと停留所の間には改札も無いし、横切らなければならない道路も無いので、大きなトランクを持っていても移動がとても楽だ。
ドイツの地域交通は赤字が容認され、その分は自治体が補填しているが、KVVの赤字の少なさは特筆できる(赤字13%)。経済的にも成功しているわけだが、その背景にはこのような工夫の積み重ねがある。
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カールスルーエ中央駅前
車を運転できなくなった高齢者も、気軽に公共交通を利用できる。
低車床のトラムを待つご夫婦。
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