このトピック「ドイツのビオ食 品・エコショップ事情」は
プリューファーさんからカールスルーエ市郊外にビオ農家がいると聞き、さっそく訪問した。農場を経営するクヌーブル(Knoebl)さんは87年からビオ農業協会“ビオランド(Bioland-Verband)”に加入してビオ農業を営んでいる。農場は全体で50haあり、そのうち15haが牧草地、35haが農地だ。現在、農場には肉牛9頭、馬1頭、ロバ1頭、ポニー1頭、それから犬1匹と猫1匹がいる。生産する農作物は牧草、小麦、ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、セロリ、レタス、カボチャなど。以前65頭いた乳牛の飼育は4年前に止め、今残っている牛を順次出荷した後は飼育をやめるそうだ。理由を尋ねたところ「個人的な理由で」とだけ答えてくれた。クヌーブルさんはエコショップも経営しているので、家畜の世話までは手が回らないのかもしれない。
クヌーブルさんが目指すのは、自分で作ったビオ農産物をなるべく自分の手で消費者に届けるスタイルだ。「ビオ農業に一番大切なのは柔軟性。何をどういうコンビンネーションで作付けするか今までより考えないといけないし、販路も自分で開拓しなければならない。」 また、ビオランドの州事務所のシュトュローブル氏はこんな風にビオ農業の特徴を説明してくれた。「例えばビオ農家が自分の農場で生産した牛乳でチーズ製造を始めたとする。仕事は忙しくなり人手もかかるようになるが収入も増えるので、野菜などの作付け面積が減ったとしてもやっていける。」 関係者から話を聞いていて印象的だったのは、彼らがビオ農業に自信と誇りを持ち将来を楽観視していることだ。
自宅に隣接したジャガイモ倉庫 小分けされた袋には“BIOLAND”のロゴと
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ジャガイモ収穫機 1日(8時間)で、約7、8tのジャガイモを収穫できる。 |
トラクターに乗るクヌーブルさん |
貯蔵してあるワラ 以前乳牛を飼っていたところに、収穫した牧草とわらを貯蔵している |
餌を食べる肉牛(年齢18ヶ月) あと半年ほど飼育してから出荷される。飼料はほとんど、クヌーブルさんの農場で収穫した牧草。それぞれの牛の耳には個体番号を記したラベルがつけられている。 |
クヌーブルさんがビオ農業を始めた理由は、酸性雨による森林破壊や川の水質汚染など“これまでのようなやり方では社会が立ち行かなくなる”という思いの強まりだった。規模の拡大と効率化を追い求めるそれまでの農業のあり方に大きな疑問を感じるようになったのだそうだ。
クヌーブルさんの加入しているビオランドは全国的に活動するビオ農業協会で、ビオ農業を目指す農家は普通こうした協会に加入する(ドイツには10あまりの全国的なビオ農業協会がある)。従来型農業からビオ農業への転換にかかる期間は2年。協会規則に従った農業を行い、最終的な検査に合格して始めて“ビオ農業”を名乗ることができ、“ビオ農産物”を出荷できるようになる(2年間の移行中に収穫される農産物は“準ビオ農産物”として出荷することができる)。
現在、ドイツ国内でビオ農業を行っている農家は全体の約3%。まだまだ特別な農業だが、ビオ食品の関心の高まりを受けて、ドイツ政府はこれを10年後20%にするという目標を掲げている。多分に政治的な数字だし、ビオ食品需要の伸びは予測しきれない部分もあるので実現性については“?”だが、ビオ農業に対するドイツの意気込みがうかがえる。
クヌーブルさんの住む集落には計7軒の農家があるが、ビオ農業を営むのはクヌーブルさんの1軒のみ。他の農家はビオ農業に関心ないのだろうか。「きっと(自分が)悪い見本なんだろうね!」と笑いながらクヌーブルさん。「7軒というのは10年前の話で、現在、専業農家は我が家と隣の2軒だけ。あとの2軒は趣味で農業を続け、馬を飼う程度。残りの3軒は完全に農業を止めている。」 ビオ食品に対する社会的な関心が高い割りにビオ農家が少ないように感じるが?「ビオ農家は年5〜10%の割合で増えている。しかし、今までと違ったことを始めるという“変化”に対して恐怖心を持つ農家も多い。」とクヌーブルさん。クヌーブル家には大学に通う娘さんと高校に通う息子さんがいるが、二人とも農業を継ぐ意志はないそうだ。ドイツ農業もまた、後継者問題を抱えている。
クヌーブル婦人と猫 カボチャは豊かな実りと収穫のシンボル。ドイツでは"HOKKAIDO"という品種が味の良さで人気。 |
クヌーブルさんの自宅 計3世帯(クヌーブルさん一家、クヌーブルさんの両親、他1家族)が住んでいる。ビオ農場も通常の農場も見た目に大きな違いはない。 |